『こどもの一生』4月3日の記録

感想を書きながらふと、「人間は考える葦である」とは言い得て妙だなと独り合点したm.です。

今回は『こどもの一生』の伏線の整理と、結末に関する考察を中心に書いていこうと思います。原作未読、あくまでの2022年度版を観ただけの人間の考察なので、見当違いでも悪しからず。

 

以下、あらすじと考察。ネタバレ注意。

 

あらすじ

製薬会社のパワハラ社長・三友(今井朋彦)とその秘書・柿沼(松島聡)は、孤島にある心のケアが専門のクリニックを訪れる。三友はこのクリニック独自の「MMM療法」のメソッドを盗み、類似施設を作って儲けようと考えていた。

そこに、ストレス起因の様々な症状に悩む藤堂(丸山智己)、淳子(田畑智子)、亜美(川島海荷)も訪れ、5人は「MMM療法=催眠によるこども返り」による治療を開始する。

治療が始まってもなお、柿沼の食事を横取りしたり、亜美に暴力を振るったりと横暴な振る舞いを続ける三友を仲間外れにするべく、4人は「山田のおじさんごっこ」という架空の人物の話で盛り上がる遊びを始める。しかしある晩、架空の存在であるはずの「山田のおじさん」(ROLLY)がクリニックを訪れた。

そして、三友によって付け加えられた「山田のおじさんは頭がおかしい」「山田のおじさんは殺人犯」という設定通りに、三友、看護師長の井手(朝夏まなと)、院長・木崎(升毅)、藤堂が次々と襲われる。

入ってはいけないと言われていた洞窟に逃げ込んだ柿沼、淳子、亜美。そこで柿沼は、自分は10歳のこどもではなく大人であることを思い出す。

食事に毎回入っていたキノコが洞窟に群生していること、淳子と亜美はまだ自身をこどもだと思い込んでいること、三友に横取りされていたせいで自分だけキノコの摂取量が少なかったことから、柿沼はキノコに催眠作用があることに気付く。そして、柿沼が「山田のおじさん」は幻覚であると確信したことによって「山田のおじさん」は消滅。他の患者も催眠から目を覚ます。

しかし、なぜか最初に風呂で襲われた三友だけが目を覚まさない。一体なぜ…?

 

伏線の整理と結末に関する考察

伏線の整理

  • 物語は1944年、孤島に残された2人の兵士の会話から始まる。中尉(今井朋彦)は目の前の兵卒(ROLLY)に対し、お前は俺の目の前で銃殺されたはずだ、お前は幻覚だ、と混乱し始める。
  • この2人のやりとりの中で、島固有のキノコを食べてしまったことも話題に出る。
  • 孤島、幻覚、キノコというキーアイテムが冒頭数分で出揃っている。
  • ラストシーンでまたこの2人が登場する。幻覚かと思われた兵卒には触れることができたが、生きているかは濁される。「信じれば無も有になる」に対する念押しか。

 

  • 物語が2022年に移ってすぐに始まるのが、看護師長・井手がこどもの頃にやった「こっくりさん」の回想。観てる最中はハテナ?だったが、このシーンこそ本作の縮図ではないか。
  • 幼き井手は「恋敵」を排除するために「こっくりさん」が実在すると思い込ませた訳だが、これを本編に置き換えると、■■は「三友」を排除するために「山田のおじさん」という架空の存在が実在すると思い込ませた、ということになる。
  • こっくりさんのシーン自体はコメディタッチで笑えるからこそ恐ろしい。

 

  • MMMクリニックランドを訪れた三友と柿沼に、心理テストと称しサイコパス診断を始める井手。「第1問、一家を襲った殺人犯が生後間も無い赤ん坊だけは殺さなかった。一体なぜ?」「第2問、刑期を終えて刑務所を出たあなた。最初に何をする?」
  • 柿沼が「可哀そうだったから」「家に帰る、家族に電話する」と一般的な回答をする横で、三友は「赤ん坊は証言ができないから」「家に押し入って金を手に入れる」とサイコパスにしかできない回答をする。
  • 【4月18日追記】「第3問、帰宅するとなぜか死体が転がっていた。あなたはどうする?」に対し三友は間髪入れず「どうもしない!」と答える。ここ、単に質問を遮ったのかと思っていたのだけど「死体に対して何のアクションもしない」というサイコパス回答だと気付いてゾッとした。
  • 藤堂は強迫性障害、淳子は窃盗症、亜美はイップス症、柿沼は解離性障害とストレスが原因の病だと診断される一方、三友の暴力性はストレス起因ではなく生まれながらの性格(サイコパス)だと診断される。
  • 性格は治らないが病気は治せると話す木崎が三友にもMMM療法が施されたのは、クリニックの脅威になる存在(MMM療法の秘密を探ろうとしている)をこども返しすることで無力化するためか。

 

  • 井手が患者に提示したMMM療法中のルールは3つ。①大人時代の関係性を忘れ、対等なこどもになる。②洞窟には近づかない。③灯台には近づかない。
  • ①は三友が破り続けるし、②は最後の最後で柿沼・淳子・亜美が破るが、③については誰も破らないため、禁じられた理由ははっきりしないまま終わる。洞窟に島固有のキノコが群生していたように、灯台にも何か秘密があったのかもしれない…と想像の余地を残している?
  • 架空の存在の「山田のおじさん」が灯台整備のため島に来たと話すのは、こども達の潜在意識の中で「灯台」は「禁忌の象徴」として刷り込まれているからか。(山田のおじさんは国土交通省という設定だが、灯台の管轄は国土交通省ではなく海上保安庁のため)

 

  • 上記3つのルールを守れば何をしたっていいのよ~!と井手は言うが、亜美に出された食事に入っている島固有のキノコを残しても良いか尋ねられた際には、できるだけ食べるよう促していた。
  • いつも三友に食事を横取りされていた柿沼も催眠にかかっていたことから、ごく少量でも毎食摂取し続ければ効果があるためか。
  • 以上から、クリニックの食事に毎食キノコが入っていたのは「無料でたくさん採れるから」ではなく「食べさせる必要があったから」と考えるのが自然。

 

  • 【4月18日追記】MMM療法の過程で、木崎と井手が意味深な会話をしている。三友の暴力性が顕著になってきたこと、サイコパスのタガが外れると大ごとになること、そしてユングの「集合的無意識」にも触れる。
  • 集合的無意識とは「生まれながらに持ち合わせている人類共通の潜在的記憶」のこと。こども返りによって、患者間の集合的無意識に作用があることを示唆している?
  • 木崎の言っていた「サイコパスのタガが外れると大ごとになる」は、三友が「山田のおじさん」のデータに殺人鬼と書き加えたこと、さらに4人に仕返しをしたいという気持ちが強すぎるあまり「山田のおじさん」という架空の存在をクリニックに引き寄せてしまったことに当たる?

 

  • 【4月18日追記】「山田のおじさん」に関する一番古いデータ入力日は3月9日。三友の書き込みは3月11日であり、山田のおじさんが「この島に来たのは2〜3日前」と話している期間と合致する。
  • 4人の患者に対しては旧知の仲として挨拶する「山田のおじさん」が、三友には「最近どこかでお会いしました…?」と疑問系なのは三友との思い出に関するデータは存在しないためか。

 

  • 三友は「山田のおじさん」と風呂に入っている間に溺れ、意識不明になる。第一発見者は井手。
  • その後「山田のおじさん」によって井手は刃物で背中を刺され、木崎はチェンソーで首を切り落とされる。
  • しかし3人が襲われた決定的な瞬間を観客含め誰も目撃してはおらず、その上事件後の木崎と井手には外傷が見当たらない。

 

結末に関する考察

以上から、三友だけが目を覚まさない理由は

  • 木崎ないし井手が三友を風呂に沈めた。あるいは、「山田のおじさん」の幻覚による恐怖で気を失った三友を治療するフリをして昏睡状態にさせた。
  • その後、三友は「山田のおじさん」によって襲われたとこどもたちに信じ込ませるために、木崎と井手も「山田のおじさん」に襲われたかのように演技をした。

と考えるのが妥当ではないだろうか。というのも、キノコに催眠効果があるとわかった上で患者の食事に毎回入れていたのなら、木崎と井手も食べているとは考えにくい。

つまり、木崎と井手は「三友」を排除するために「山田のおじさん」という殺人鬼があたかも実在するかのように演じていたと考えるのが自然ではないだろうか。だとしたらこの2人とてつもない演技派な訳だが、中の人が升毅さんとまぁ様なので説得力しかない。

ただ、井手ちゃんというキャラクターの可愛らしさから「そんな酷いことはしない!」と思いたい自分もいて、そうなると思いつく理由が

  • 三友は柿沼の食事を毎回横取りしていたため、他の患者よりもキノコの摂取量が圧倒的に多かった。そのせいで「山田のおじさん」に襲われたという幻覚が強い暗示となり、深い昏睡状態から目が覚めなくなってしまった。

これなら三友の自業自得、ちゃんちゃんとなる。みんなハッピー。ただこの説だと回収されない伏線が多過ぎるので違うかな…とは思う。

【4月18日追記】ちなみに、患者の誰かないしは全員で三友を殺した説を提示していないのは、①倒れている三友が発見された際、4人は一緒にいたから。②暴力を振るう三友に対し、暴力で返すのではなく仲間外れにする策を取った4人が、「殺す」という一番乱暴な手段を取るとは考え難いから。③柿沼のもう1人の人格は武道の達人だが、強いストレスを感じても自傷行為(壁に頭突きをする)を繰り返すだけで他人に危害を加えたことは無かったため、この局面で三友を殺すとは考え難いから。以上です。

 

その他印象的なシーンや感想
  • Twitterにも書いたのだけど、無難なスーツとネクタイに身を包んだ柿沼が、スーツの下にはカラフルなボーダーの靴下(ポールスミスみたいの)を履いていて、好きなものを選ぶ気力と自我がまだあるんだ…と安心してしまった。それくらい冒頭から三友のパワハラっぷりが凄い。
  • 井手ちゃんの衣装がグレーのオーガンジーが重なったナース服なせいで、可愛らしさの中にクリニックの胡散臭さや非現実感が見え隠れしていてとっても良い。ディズニーハロウィンのゴーストブライドを思い出した。最高。
  • 満面の笑みで「いいのよ〜!」を連発したり、藁人形で三友を呪ってやる!と息巻いてみたり、キュートでお転婆な井手ちゃんに終始癒されていた。あまりにハマり役なので、まぁ様にバカリズム脚本のギャグコメに出て欲しいという気持ちが芽生えた。絶対に面白いからどうですか。
  • コールセンター勤務の淳子VSパワハラ社長の下で働く柿沼の謝罪合戦に爆笑。そして謝罪の言葉ってこんなにあるんだ、日本語って凄いな…と改めて感心した。
  • 川島海荷ちゃん、清楚系なイメージが強かったけど地雷系ファッションも華麗に着こなしていて流石だ…!と感服。それでいて気の強い女の喋り方がめちゃくちゃ上手い。
  • 医師の木崎、プログラマーの藤堂の台詞が専門用語が多い上にとにかく長くて、これがスラスラ出てくるおふたりに舌を巻いた。
  • もうひとりの人格と入れ替わった柿沼が井手ちゃんと話すシーンで、「休みの日は〜〜掃除やら、なんだっけ?とにかく、何か色々やってんだよ」と台詞を飛ばしながらも、オラついた表情を変えなかった聡ちゃんには、ナイスアクシデント賞を贈呈します。
  • 柿沼は終盤にも検定や趣味を列挙反復するシーンがあるのだけど、今作は赤シャツの武右衛門の台詞量の比じゃなく、聡ちゃんの成長を感じざるを得なかった。
  • あと柿沼のもう一つの人格「ていぞう」を武道の達人設定にしてくれた人、ありがとう。聡ちゃんのアクションシーンが見れて最高でした。
  • それで言うと、ごっこ遊びでタキシード仮面侍になる柿沼も、にっこにこで「ピロリロリン♪」と指をピコピコ動かす柿沼も、好きなポケモンピカチュウな柿沼もSo Cuteでした。
  • 昭和のこどもに返るがテーマのはずなのに、こどもたちの口から出てくるアニメがほぼ平成の作品(セーラームーンポケモンエヴァンゲリオン)だったのは、客層を考えてくれたのかな。
  • そして、兵卒にして山田のおじさんことROLLYの怪演。そこはかとなく漂う「関わってはいけない人」感が上手過ぎる。観劇後も山田のおじさんの「よろしいですかぁ〜」とチェーンソーの音がべっとりと耳にこびり付いて離れず、遂にその晩夢にまで見てしまった。それくらい怖かったし、でも「山田のおじさん」が怖くなかったら何の説得力もなくなってしまうのでこれが大正解。それにしても、わたしの知っているROLLYNHK教育テレビの姿だったはずなのに…。
  • カテコでは、2回目のハケ際に「ピロリロリン♪」を披露した聡ちゃんと、3回目で升毅さんからいいこいいこされて照れ笑いを浮かべる聡ちゃんに癒されました。

 

  • 【4月18日追記】MMMクリニックランドを訪れた三友と柿沼の上から突然垂れ幕が落ちて来て柿沼が三友を庇うシーンで、初日は勢い余って上手袖に向かってズッテーン!と転がり混んでしまったのだけど、18日は少し屈んで構えるように庇っていた。初日は力み過ぎちゃったのかな?だとしたら可愛い…。
  • 【4月18日追記】柿沼の主人格が「しのぶ」で交代人格が「ていぞう」の由来を考えてみた。しのぶは三友のパワハラに耐え「忍ぶ」、ていぞうは「鼎俎(ていそ)」から来ているのでは?
  • 鼎俎は「死ぬ運命にあること」を意味し、「鼎」自体にも「生贄を煮る三本脚の器」「王を支える者」の意味合いがあることから、主人格を支え、最後は消えていく交代人格にピッタリな気がする。漢字にするなら「鼎三」か?

 

以上、『こどもの一生』初日レポでした。

※4月18日の観劇後、一部青文字で加筆しています。